「マグネット」山田詠美(1999年 幻冬舎)
1999年4月発行 幻冬舎
帯の紹介文「甘い罪と罰のはざまで、世界はあなたのものになる。罪の意識は、人を洗練させる。動物のように思慮深い瞳をした者たちがひき起こすナインストーリーズ。心の未知の扉を開く最高の純文学。」
こちらも学生時代から大好きな山田詠美さんの短編集です。
一番好きなのは「YO-YO」というお話。
何て読むのかな、「ヨーヨー」?
その夜、美加は、男を買ったが、買い物をしたという気分にはならなかった。カシミアのコートが肌の一部に感じられる、そういう冬の夜のことだ。(P67.l.1-2)
バーテンダー(男性)とお客さん(女性)がライトな肉体関係を持つという始まりですが、話の中心は2人の会話と「お金」のやり取りやその意味についての考察。
重すぎず軽すぎない会話が心地よく、お金のやり取りには少しハラハラもし、読了感がものすごく良い、そんな作品です。
「なんて、幸せなんだろう」
思わず口をついて出た言葉なのだろうが、美加は仰天した。なんて、奇特な人なんだろう、と言い返したくなった程だ。その直後に、そんなことを言う男なんて、いない。幸せ?彼女は、それに当てはまる概念を必死に考えた。(P76.l.10-13)
山田詠美さんの作品、私は言葉の選び方とリズム感が大好きで、読んでいるとつい声にだして音読してしまいます。
「YO-YO」はもう、何度音読したことでしょう。
あ、ひとりでです。特に誰に聞かせるわけでもなく。
直接的な言葉も文章の巧みさゆえかさらりと本文に溶け込ませて読ませてしまう、そして圧倒的にリズムがいい!
(関係ないけどいつか同好の士と朗読会を開くのが私のドリームです。)
この「幸せ」くんが可愛いんですよね。
余裕があるようで、無いようで。
素朴なようで、玄人らしさもあるようで。
恋愛をテーマにした作品って「少女漫画」はもちろんそれ以前から身近にあったし、選択の余地もなく必要も感じず摂取してきましたが、山田詠美さんの描かれる作品のバランスは、10代から20代頃の私にとって、心地よく刺激的で好きでした。
普通の人の普通の感覚(倫理観や常識といっても良いかも)と、そこから少し外れた感覚の距離感を丁寧にひもといてくれるような、その説明自体が気持ちよくて。
収録作品の中の「マグネット」とかは、あらためて内容に言及するのが今は怖いような作品ですね(好きです)。
好き好き言うだけの記事でごめんなさい。そういう趣旨のブログです。